■トレーニング 強化練習に先立って'99年末に順天堂大学運動生理学研究室の協力で選手の専門的な体力測定を実施。当時ナショナルチームの候補選手20名が参加したが、体力、筋力ともに県大会に出場できる中学生並という測定結果が出た。まずはハーフ20分というハードなバスケットの試合に耐えられるだけの体力および筋力をつけることが、ナショナルチーム最初のトレーニング課題となった。体力測定の結果をふまえてナショナルチームのスタッフが各選手個人用の体力トレーニングメニューを作成。選手と所属先の監督に渡して自主的にトレーニングができるようにした。
ナショナルチームとしての強化練習の日数は29日間、月1回週末に北海道から福岡まで選手を召集しての練習となった。本来ならば早い時期にチームプレイを開始したいところだったが、選手たちが日常的にバスケットボールに触れる期間が少ないため、いざ練習になると前のレベルにフィードバックしてしまうことが多く、時間がかかったことがあげられる。これは選手自身の意識と選手をとりまく環境に問題があると言える。また当初は「ナショナルチームに選ばれただけで満足」という選手も多かった。
外国の選手と戦う場合に、日本の選手たちは体格や身長の差から、接触プレイや正面から当たるようなプレイは不利だろうと考え、ブレイクドリルを中心に練習をしてきた。パラリンピックに出場する準備としては不十分なものだったかもしれないが、現在の日本の選手にとって肉体的、精神的今の状態が限界であったと言える。これ以上選手に新しい情報や技術を指導しても、選手の方が混乱してしまうおそれがあるため、スタッフで話し合いの結果、今回はいくつかにポイントをしぼって指導した。こういった強化練習の後、選手12名、スタッフ4名の計16名でシドニーへ向かって出発した。■大会期間中 シドニーの選手村到着後、1日2時間は練習場が確保されていた。参加国の大半がサブコートだったが、幸運なことに日本ナショナルチームは2日間The Domeのメインコートで練習できる日があった。新しい技術練習はできないので、今までに練習してきたことの確認やシューティングを中心に練習した。メインコートは観客席の真ん中にコートがあり、距離感がつかみづらい。シュートの感覚をつかむまでに多少時間が必要だった。
シドニー・オリンピックの予選リーグでも使われたThe Dome。始めてこのメインコートを踏んだときは選手、スタッフとも感動したのを覚えている。中には絶叫した選手もいた。コート練習以外は選手村内でのコンディショニングに専念。ランニング、腹筋、腕立て伏せ、スクワットなど日頃から行っているトレーニングだ。
選手村での食事は基本的には自己管理にまかせ、バランスの良い食事を摂るように指導した。しかし選手たちが店員のボランティアと話すことを避けて、ただ手に取るだけで食べられるハンバーガー、ポテト、コーラを2日連続で食べていた時にはさすがに注意した。今では笑い話ではあるが、今まで外国人とコミュニケーションを取る経験をしたことがなかったのであろう。
選手にはナショナルチームの活動期間中に毎日日誌をつけさせている。シドニーの時ももちろん書かせていた。文字を書くのが苦手な選手、文章構成の苦手な選手、絵で気持ちを表現する選手などさまざまであるが、日誌の内容でも選手の意識レベルが明確になっている。個人の反省、チームの反省ができ、次のゲームの目標設定ができる選手、現状のままで精一杯な選手、何も考えていない選手など・・・・。現場のスタッフは毎日その日誌の対応や選手のケアなど駆けまわった。■大会の成果 シドニー・パラリンピックを終えて、世界のレベルは非常に高いと言うことを再認識できた。ヨーロッパ勢上位4チームは'98年の世界選手権以降かなり強化を図ったと聞いているが、どの選手もアスリートとしての意識の高さなどどれをとっても日本とは格段の差があった。
内容的には'99年のアジア・太平洋選手権大会から継続して「速い展開のバスケットボール」を強化してきたが、今回のシドニーでひとつの成果が見られたと思っている。残念ながら結果を残すことはできなかったが、練習や試合というプロセスは選手にとって大きな自信につながると思っている。得点は少なかったのだが、攻撃(オフェンス)回数は多かった。アウトサイドを攻める判断もできつつあるが、それが得点に結びつく前にボールを取られてしまうミス(ターンオーバー)が非常に多かった。これがクリアになればどのチームとも互角に戦える試合だったと言える。ディフェンスは数種類で対応するつもりだが、結果的にはそのディフェンスに対応できる選手が少なく、基本的なマン・ツー・マンディフェンスと2-3のゾーンディフェンスで戦うことにした。日本はガード陣に機動力があるので、ディフェンスで相手にプレッシャーをかけるプレスディフェンスも考えたのだが、実際に試合で使う機会は少なかった。
シドニーで世界のIDバスケを見たが、組織的なプレイを導入しているのはオーストラリアと日本だけで、他の国々は個人能力で対応しているのを感じた。日本は強化練習の期間は短かったが、組織的なプレイや個人の能力も格段にあがったと思う。知的障害を持っている選手でもやればできるのだとシドニーで改めて確信ができた。理解するには時間がかかっても必ずできると信じて、今後もねばり強い指導をしていきたいと思っている。■今後の課題 シドニーを終えて様々な課題が残った。ターンオーバーとイージーミスは選手の技術的なものもあるが、集中力が切れてミスが出るというメンタルな部分での課題となるだろう。時間をかけて繰り返し指導していきたいと思う。また、リバウンドの強化があげられる。日本選手は相手とのコンタクトに非常に弱い。バスケットは空中格闘技と言われるほど激しいスポーツであり、選手にコンタクトしたときに負けない身体づくりが大切である。また、どちらのサイドのボールでもない「リバウンド」を取るというようなボールに対する執着心を養う必要があり、これもやはりメンタルな面での課題である。
これから多くの人と話し合いを重ね、IDバスケがひとつの方向性としての「競技スポーツ」として確立されることを目指すべきだと思う。日本の選手にくらべ、外国人選手は「国の代表である」という意識が非常に高い。そういった前向きの意識も含めて、日本選手のメンタル面での強化と指導はこれからの大きな課題だ。選手たちの環境の強化も必要である。ナショナルチームとして練習ができる時間は限られているため、選手所属先の指導者たちとの連係で選手の育成をしていきたいと思っている。
2004年のアテネ・パラリンピックに向けて、日本国内では課題が山積みではあるが、今回のシドニーをスタートラインとして、着実にひとつひとつステップアップししていきたいと考えている。