■出発前の苦闘… 平成13年度の強化事業として、当初より計画していた全豪選手権にFID男子ナショナルチームを派遣した。助成金の申請許可、スポンサーの確保ができず、その結果参加費を選手が自己負担する形となり、派遣できた選手は、男子7名のみという非常に微妙な人数となった。女子は参加希望者が5人に満たず、残念ながら派遣を断念せざるを得ない状況となった。大会に参加することで、学び得ることは計り知れないという連盟強化委員会の基本的な共通意識のもと、2001年7月5日〜15日の10泊11日のハードな遠征に旅立った。 ■キャンベラ到着 キャンベラは現在冬。日本との気温差が30度近くある。選手の体調管理には十分に注意せねばならない。
到着後、宿舎に近いキャンベラショッピングセンターにて各自昼食を取らせる。初めてなので、吉村アシスタントコーチが説明し、その後ドルを渡して各自購入。スタッフは端から様子を伺うと、選手たちは手っ取り早いハンバーガーに手を出した。後に選手たちに感想を聞くと「英語が難しく思っていた以上に大変だった」、「コミュニケーションが取れない」、「ジェスチャーで済むからラク」など、多々感想はあった。何事も経験である。■オープニングセレモニー 18時からサザンクロスバスケットボールアリーナでオープニングセレモニーが行われた。同時開催のU-18のチームを合わせ40チーム約500名が一気に集い、異様な雰囲気になっていた。U-18の選手の中には200cmを超える選手も少なくなく、タスマニア代表の中には218cmという今大会一大きな選手がいる。我がチームの147cmの那須は、並ぶとおへそ程度にも満たない。この状況に日本選手たちは何に対しても驚き、雰囲気に飲み込まれている感じがした。驚くことに対しても経験だと言い続け、早速宿舎に戻り、ミーティングを行った。観光気分を払拭させ、戦う気持ちを持つようとアドバイスした。
■【予選リーグ】日本 60-54 ビクトリアカントリー 体格、運動能力とも互角の対戦となった初戦。守屋のカウントショットで始まり、出だし好調。2-3のゾーンディフェンスで指示した通り、ペイントエリア内をしっかり守ることができた。しかし、アウトサイドに反応するようになりディフェンスが広がり、インサイドに穴ができはじめる。
甲斐、中野、那須、平野、石田の5人は国際大会デビュー戦。身体が硬くなっていた。実力差から言えば、全く問題のない相手ではあるが、初戦、ましてデビュー戦となればイージーミスが出るのも仕方ない。
試合は終始一進一退を続け、勝敗はどちらに転んでもおかしくなかった。津恵、守屋のベテラン組は「勝ちたい」という気持ちがコート上で表現できるようになってきた。この気持ちを持つことが上達の秘訣であり、チームに対して良い影響となるだろう。今日のゲームは一つ良いものを得ることができた。■【予選リーグ】日本 103-38 タスマニア タスマニアとの実力差は明確で負けることは考えられない。従ってゲーム内容が重要になってくる。
この試合、高校3年生の中野が大ブレイク!今大会記録となる46得点を挙げる活躍を見せた。攻撃意欲が出てきており、身体を張ってよくボールに絡んでいた。中野自身、相当な自信がついたようである。
甲斐、那須もよくコートを走り回り、自分たちでプレイを作ってみようという意識が芽生え始めた。現在の高校生でもなかなかできないことである。守屋、中野のインサイドが安定してきたことにより、チームオフェンス・ディフェンスとも少し計算できるようになりつつある。特に守屋はシドニーパラリンピック後もトレーニングを積み、ポストドリルを欠かさず練習してきた。石田もこの日初デビューを飾った。■【予選リーグ】日本 42-110 ニューサウスウェルス 相手のディフェンスがこれまでの戦いのレベルとはまったく違うため、うまく攻められない。インサイドにボールは入るが、研究されておりダブルチームで対応してきた。中野、守屋は今はかわすだけの技量が無く、為す術が無い。中野は昨日の試合で膝を打撲し、慣れないテーピングを巻いて出場するも不安が先立ち、プレイに影響が出た。
しかし、この試合一人気を吐いたのが津恵だった。ドリブルペネトレイトをし、ディフェンスを崩し、積極的に攻め込んだ。その結果、チーム最多の22点を稼いだ。
また、ディフェンスに関しては現状レベルでの合格点を与えたい。指示されたことを一生懸命トライし、チームディフェンスとしてはうまく機能した。コミュニケーションを図るためによく声を出していた。フロント陣も積極的にマークに行き、外角シュートが決まらないニューサウスウェルスは焦りを感じ、シュートの早打ちをしてきた。まさにツボにはまった感じがし、選手たちもディフェンスには好感触も抱いていた。敗れはしたが、得るものは大きかった。■【決勝リーグ】日本 75-69 クイーンズランド この試合、披露のピークのためかなかなか集中できず。そのままゲームは流れるかと思われたが、津恵、守屋、甲斐が2桁得点をし、辛くも逃げ切る形となった。相手のレベルが高くなればなるほど、より正確にプレイをしなければならないとともに、より正確な判断が必要である。この試合では判断にとまどいを感じながらプレイしていた。不安を抱え、失敗をするとすぐに視線はヘッドコーチの元へ。ハーフタイムに「その行動はおかしい」と伝えた。すべてがコーチの指示通り動くのではなく、選手たちが何かを感じ、問題が生じているのであればその場で解決する習慣を身に付けろということを付け加えた。見放しているのではなく、更なるレベルアップを図るのであれば必要なことである。
後半に入りディフェンスを立て直し、リバウンドが取れるようになった。甲斐の走ることに対しての意識が強まり、連続得点につながった。那須のスピード感のあるドライブは他のチームも圧倒されていた。
決勝リーグ1勝である。休養日を前にして、いい終わり方ができ満足である。■【決勝リーグ】日本 26-103 ビクトリア メトロ 試合前からテンションが上がらず、相手のスピード、パワー、テクニック、体格差などから呑まれていた。試合開始と同時に一気に攻め込まれた。タイムアウトを取るが、修正がきかない。相手チームはよく研究しており、勝負所の津恵、守屋が完全に抑えられてしまった。190cmを超えるセンターを相手に戦うが、どうしてもポジションの取り方が中途半端でキャッチミスを連発する。
バスケットボールはトランジションゲームである。切り替えが悪ければ致命的となる。この試合の敗因はまさにそこにあった。■【3位決定戦】日本 70-67 クイーンズランド 大会最終日、心身ともに限界を超えている。試合前のミーティングでは選手の顔に緊張が走り、精神的な弱さを垣間見せた。「勝ち負けを意識せず、自分の力を発揮すればいい」というアドバイスにようやくホッとした表情に戻った。
試合開始直後、津恵のアウトサイドシュートが炸裂。このまま波に乗るかと思ったが、インサイドの踏ん張りがきかず、1点リードで終わった2クォーターは諦めムードが漂ってきた。ハーフタイムでは選手を落ち着かせ、やるべきことを再確認した。
しかし、要の津恵、守屋が3クォーターに4ファウルとなり、4点差をつけられ4クォーターを迎える。
残り7分には最大10点差。これ以上離されては厳しい。ここにきてようやく甲斐が走り始め、ワンマン速攻が決まるようになる。ディフェンスの意識を持たせるよう指示した平野を投入。見事に機能し始め、中野、守屋がディフェンス・リバウンドを頑張り、ブレイクにつながった。津恵の3ポイントも決まりはじめ、残り3分を切ったところで同点に追いつく。
チームのテンションも上がり、コート内の選手とベンチにいる選手がお互いに声を掛け合い、最高の山場を迎えた。
最後は津恵の3ポイントが決まり、3点差で逆転勝利をおさめ、3位決定!銅メダル獲得である。
選手たちは目に涙を浮かべながら、興奮し喜んでいた。津恵、守屋は昨年のシドニーパラリンピックでは1勝もできなかったのが、今回は3位になることができた。勝つことの本当の喜びを味わったのはこの2人だったのかもしれない。■戦いを終え… 国際大会で勝つことを味わった7名の選手たち。世界で勝つためには厳しい環境、内容についていける頭脳、身体、そして心が必要であることが理解できたに違いない。
勝つことも負けることも経験であるが、それをいかに自分に生かしていくかが大きなポイントになる。今回貴重な経験をしたから「もういいです」では話にならない。選手もそうであるが、周りの大人たちのサポートにも影響されるはずである。
今後の課題として選手の強化育成はもちろんのこと、国内での全日本ナショナルチームへの協力及び支援体制を確立せねばならない。各チームとの協力関係を重視し、お互いに『選手の夢のために』ということを念頭に置きながら活動をしていきたい。その中には費用の問題も発生するだろう。すべてが助成金、連盟負担金としてではなく、各チームでまた、関係機関での自助努力を『選手の夢のために』お願いしたいものである。
今回の選手は自己負担金で出場した。選ばれながらも、費用の問題で出場できなかった選手も実在する。活動をしていく中で最大の問題だと感じている。
2004年のアテネパラリンピックを目指し中長期的に強化を進めていく中で、今回のような貴重な経験ができたことはFIDバスケットボール界に於いて大きな財産になると言えよう。
最後に今回の海外遠征にご協力いただいた(財)日本バスケットボール協会、都道府県協会、選手所属先、勤務先、学校、施設、ご支援頂いた企業、関連各所の皆様に支えられて大成功に終わることができた。
チームを代表し、感謝の意を申し上げまとめとしたい。ヘッドコーチ 小川直樹